2023-24 STMダブル760K ②結果まとめ

第4回 OSJ KOUMI100 2017 〜レースレポート③〜

第4回 OSJ KOUMI100 2017 〜レースレポート③〜


〜結果報告〜
〜大会概要とまえがき〜
〜レースレポート①〜
〜レースレポート②〜
からのつづきです


▶︎▶︎5周目
《7:42:04 (↑5:27:43 ↓2:14:21) 区間順位86位》



10/9
2:01 (21:01経過)
133.2km地点
5周目スタート地点を通過

4周目に要した時間は6時間28分。これは目標から30分以上タイムを落としている事になる。情けない気持ちと残り1周という安堵感を両手に抱えた状態で選手待機場所へと入っていった。

まだまだ元気そうだから大丈夫!
頑張って!

デポしていたザックを受け取る際にスタッフの方に明るい笑顔でこう言われた。そうだ!確かに目標には届いていないかもしれない。でも昨年と比べればどうだ?もう辞めたいなどという弱音は頭の隅にも湧いてこないし身体も元気。ただただ結果を出せていないことへの情けなさだけが膨らむばかりだった。

温かい蕎麦を片手にパイプ椅子に座って周囲を見回してみる。野口さんはペーサーとして出発されてるのだろう。Y子さんの姿もなかった。前にはブルブルと身体を震わせながらストーブの前で毛布をかぶるランナー。椅子に座り込み下を見つめ続けるランナー。遠くにはリタイアしたのか休息をとっているのかダウンを着て横たわっているランナー。「よし!」と言って椅子から立ち上がり周回コースへと旅立っていくランナーの姿もあった。

ザックに補給食を詰め込み、シューズに入り込んだ土や泥を払う。そしておにぎりを蕎麦の出し汁につっこんでズルズルとかきこむ。いつまでも記録やタイムばかり気にしていても仕方がない。これが今の自分の実力なんだ。ご飯を飲み込みながら現状を受け入れる事に専念した。それに次の1周で奇跡的に挽回できるかもしれない。ラスト1周。自分の使命は絶対に完走すること。この決意の灯火は自分でも不思議なほど全く弱まってはいなかった。

よし!

そう言うと椅子から立ち上がりコース上へ。スタッフの方に「戻ってきてくださいね!最後の一周めいいっぱい楽しんで!!」と明るく送り出してもらう。必ず戻ってこよう。意気揚々と最終周の扉を叩いたことを今でもよく覚えている。



ちょこちょことした足取りだが少しずつ歩を進めるといつもの林道へ。比較的平坦なところはなんと走り続けようと懸命に足を動かしていたが気づいた時にはゆらゆらと木々が揺れるように歩くしかできなくなっていた。最後やろ。ここは頑張って走らな。そう脳は命令しているが電池切れのリモコンのようにまるで反応がない。


前も後ろも人の気配はない。急に怖くなってきた。もちろん心霊的な意味ではない。だ。今年のONTAKEでも熊が出たという話を聞く。それに最近、某ブログで登山中に熊に襲われ重症を負った体験記を読んだばかり。熊鈴がしっかりと聞こえるように衣服につける。


カランカラ〜ン

カランカラ〜ン


真っ暗な林道に鈴の音がこだまする。その音を聞いていると突然睡魔が襲ってきた。その勢いは暴力的といってもいい。歩くからダメなんだ。そう思って必死に抵抗を試みるも時すでに遅し。頭と身体が完全に分離してしまったような感覚。こうなるともうどうすることもできない。どこかで理性が働いているのだろう。その場で眠ろうとはしない。前へ進もうと必死に身体を動かしている。海の奥深くで歩いているダイバーの姿を想像してもらえればいいかもしれない。まさにあんなか感じでしか進めなくなっていた。


背後に気配を感じたので振り返る。すると一人のランナー(以降Oさん)がストックを巧みに使い通り過ぎていった。4周目の時のように何とか食らいつきたいと試みるが全く身体が動かない。ただ呆然と見送るしかできなかった。


しばらくすると上の方にライトが見える。こんなのろのろとした歩きでも誰かに追いつくのが不思議だった。一瞬幻覚かと思ったが徐々にその灯りに近づいていく。なんとそれは先ほど抜かれたOさんだった。なんだか歩き方がおかしい。本当に水中を歩いているみたいだ。話をすると睡魔に襲われている最中らしい。全く同じ状況だった。そこから2人でしばらく深海を彷徨い続ける。記憶が曖昧だが抜きつ抜かれつしたような気がする。


今までの経験上、睡魔だけならまだ何とかなる。本当に恐ろしいのは次にやってくる二次的被害だ。寒さだ。それは超ウルトラランナーにとっての大敵と言ってもいいかもしれない。標高1500m付近。10月。山の中。深夜。これだけでも十分寒いことは想像できると思う。しかし身体がしっかりと動いていれば表面は寒くても身体の芯には溶鉱炉のようにドロドロとした熱源があって薄着でも全く問題がない(実際ノースリーブに短パン、アームカバーだった)。しかし睡魔に襲われその熱源が消失してしまうと瞬く間に身体は冷え始める。するとどうなるか。

激しいメンタルの低下

こうなるともはや絶望的といってもいいかもしれない。全てがマイナス方向にしか考えられなくなる。

・こんな寒さで標高2000mの山中は危険じゃないだろうか。
・もうしんどい。辞めたい。
・下山してリタイアしようか。
・いや本沢エイドでリタイアしよう。

つい数時間前まで絶対に完走すると誓っていた男がいとも簡単にリタイアという選択肢を自分に与えてしまっていた。今キーボードに文字を打ちながら自分の意志の弱さに辟易すると同時に、メンタルが低下した時に起こりうる180度異なる自分の思考の変化っぷりに顎がはずれそうだ。

断片的な意識の中で気づいた時にはOさんは遥か先を進んでいた。何人かのランナーにも抜かれたように思う。そういえばこんなこともあった。すぐ後ろに気配を感じたのでパッと振り返ると、小さな子どもが服を掴もうとしているように見えた。うわ!思わず飛び跳ねる。もう一度後ろを振り返ってもそこには延々と続く林道しかなかった。

木にもたれ込んだり、時には石の上に座り込んだりしながら進み続けた。寒いからじっとしていることもできない。どれくらい時間が過ぎたのだろう。スタッフの方の声が遠くに聞こえてきた。ようやく長い長い林道が終わりを迎えようとしていた。そして自分のレースも…


レースレポート④へつづく





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