2023-24 STMダブル760K ②結果まとめ

第7回 小江戸大江戸200K 2017 その⑨ 〜大江戸・最終編〜

第7回 小江戸大江戸200K 2017 その⑨ 〜大江戸・最終編〜

更新遅くなりました。あまりの内容の濃さ(自身の要約力の無さはこの際棚に上げておきます)のため大江戸編は前・中・後では収まりきらなかったため、今回は便宜的に最終編と称してお届け致します。終盤はほとんど写真を撮っていない(撮れなかった)ことに加え、内容も精神的な文言(内向きな思考)が多くなります。つきましては読者の方には苦行を強いることになるかもしれませんが最後まで一読して頂ければ嬉しいです♪

その① 〜準備編〜
その② 〜結果報告〜
その③ 〜大会概要とまえがき〜
その④ 〜小江戸・前編〜
その⑤ 〜小江戸・後編〜
その⑥ 〜大江戸・前編〜
その⑦ 〜大江戸・中編〜
その⑧ 〜大江戸・後編〜
からの続きです


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防寒着を着込んで歩いていると渋谷さんに追いつかれた。トントントントン。軽やかな足どりだ。どんどん離れていく後ろ姿をぼんやりと見送るしかできない。もし今目の前でゾウやシマウマが群となって現れたとしても何の感情もなくただぼんやりと眺めていただろう。結局、渋谷さんは21時間42分というタイムで高橋さんに次いで2位でフィニッシュする。これは自分とは40分近く差をつけられたことになる。完敗だ。

さて、次のチェックポイントは浅草寺。もちろんこのままダラダラと歩いているわけにはいかない。現在3位だが後ろのランナーとはどれほど離れているのだろうか・・・。一瞬後続のランナーが山のように襲ってくる場面を想像して恐ろしくなったが、すぐにそんなことを気にしても仕方がないと冷静になった。とにかく今はスコップで穴を掘るように黙々と足を動かす必要がある。

よし、あの橋を渡ったら歩くのはやめて走ろう。

158.2km地点
浅草寺本堂CP

160.3km地点
鳥越神社CP

全てのチェックポイントをカメラに収めたことで少しホッとしたのか走るペースにも徐々にリズムが生まれてきた。キロ6〜7くらいだろうか。しかし、どのようなペースであろうがこのリズムの火を絶やしてはならない。『リズムの火』は自分なりに発見した超ウルトラでのコツみたいなものだ。かと言って薪をくべ過ぎてもダメだ。少しずつ少しずつ、まるで親鳥が卵を温めるように見守る必要がある。


「ゆっくりでも自分のペースを維持し続ければいいよ」

応援に来てくれたBUNさんの声が頭の中で反響した。すでにスタートから17時間近く経過しようとしているんだから、距離に関係なくどこを走っているランナーも今は自分と同じように苦しい時間帯のはずだ。小江戸大江戸を走っている知り合いのランナーひとりひとりの顔を思い浮かべた。皆もおそらくそれぞれのドラマや苦痛を伴いながら今もこの東京をひたひたと走っているのだろう。そう思うとなんだか力がコンコンと湧き出て来た。

このペースなら前を行くランナーにだってもしかしたら追いつけるかもしれない!

長年動いていなかった風車がまわり始めるように、ギシギシと軋み音を立てながもリズムよく走り続けた。120km以降10kmごとのラップが平均キロ7分台まで落ち込んでいたが、160〜170kmのラップは平均キロ6分台にまで回復する。

よし!いけるぞ!

王子駅前を横切り、本郷通りから北本通りへと進路を変える。しかし、徐々にペースは落ち始め、気づいた時にはリズムの火は死に絶えていた。どれだけ火が消えないように試行錯誤したところで燃料がなければどうしようもない。今冷静に考えてみるとエネルギー切れだったと思う。いわゆるガス欠だ。考えてみれば128km地点のエイドでカレーを食べてからカロリーのあるものは一切とっていない。ザックにはおにぎりやエネルギーバー、ジェルが入っていたにも関わらず、なぜ少しでも摂らなかったのだろう。走りすぎて頭がバカになっていたのだろうか。この時ガス欠に陥っているなんて考えもしなかった。おそらく胃腸の気持ち悪さがまともな思考をシャットアウトしていたのだと思う。


赤羽台団地へ登る階段

赤羽駅を通過した頃には這うようにしか進むことができなくなっていた。10キロラップがついに平均キロ8台になる。それでも走り続ければもしかしたら前に追いつけるかもしれないという幻想は捨てていなかった。だからこれまでより止まることも歩くこともできるだけせず、走るという行為を意地になって続けてきた。だが、気持ちとは裏腹に走るスピードは極端に落ち始めていた。

2:55頃 (約18:55経過)
178.4km地点
高島平AS付近を通過
※このASは朝9:00まで閉鎖している

荒川土手に登る手前のコンビニに見覚えのあるシルエットが暗闇の中にぼんやりと浮かびあがってきた。探るようにコチラを見ている。

え!
もしや?!

いつホノっち!!

ついに会うことができた!!身体は疲弊し、立っているのもやっとの状態だったが、いつホノっちの顔を見ると心は一気に充足感で満たされた。

photo by いつホノっち

車のトランクにはたくさんの食べ物や飲み物が積まれていた。手作りカレー、おにぎり、細かくカットしたバナナ(黒ずまないように一つづつレモンを塗ってくれていた)、その他果物、きゅうりの漬物、ホットコーヒー、コーンスープ、コーラやスポーツドリンクなど。他にもあったかもしれない。せっかくこれだけのものを用意してもらっていたにも関わらず胃腸の調子は悪くほとんど食べられなかった。

「前のランナーさんとは7分差だよ!」

え?!7分差?!この時点では意外にも渋谷さんとの距離はそれほど開いてなかった。あとで聞いたところによると彼もこの時も足が終わっていたらしい。しかし、また最終エイドから華麗なる復活を遂げたとのこと。さすがは超ウルトラランナー。死んでも何度でも復活する力が俺にはまだない。死んだら死にっぱなしだ。

いつホノっちと話すことでフラフラ感は少しマシになった。こんな遅い時間にも関わらず応援のために待っていてくれたのは本当にありがたい。まるで初めて小学校の門をくぐる息子を見守る母親のように見えなくなるまでずっと見守ってくれた。

土手へ上がってからは完全に真っ暗だ。ヘッドライトの明かりを頼りに進む。途中で道を見失い何度も堤防を上がったり降りたりを繰り返す。よく見たらちゃんと道があるのに。何してるんだよオレは。まともな思考までできなくなったのだろうか。無駄な時間と労力を使ってしまった。

堤防沿いは遠く先まで見渡せる。前も後ろもランナーの気配は一切ない。完全に一人だ。遠くにぼんやりと見える陸橋を目指すが全く近づいてこない。陸橋のぼんやりとした明かりをずっと見て走っていたら催眠術にでもかかったように頭と体が完全に分離したような錯覚を覚えた。「走れ!」と頭は命令してるんだけども、身体はそれにきちんと従っているのか全くわからない感覚とでも言えようか。少し大げさに聞こえるかもしれない。でもちゃんと目でみて「よかった!ちゃんと足が動いてる!」って事を確認しなければならないようなそんな感じだった。

ぼんやりとした陸橋がようやく近づいてきたがまだ終わりではない。次の陸橋だ。これまた蜃気楼のようにぼんやりと陸橋の明かりが見えるだけ。さきほどのデジャヴか?ってくらい同じような景色がつづく。相変わらずあたりは真っ暗。まるで海底奥深くを彷徨うダイバーのようにゆっくりと、しかし着実に、あの光の元へ辿り着かなければならない。

どれくらい時間が過ぎたのだろう。遠くにヘッドライトの明かりがゆらゆらと動くのが見えた。あ!エイドだ!!


4:26 (20:26経過)
189.9km地点
avg.6'27/km
秋ヶ瀬ASを通過

簡易テントのような中でスタッフの方はこれから来るランナーのためにせっせと調理をされていた。これ飲むか?と熱い麦茶を入れてもらった。少し甘みのある麦茶だった。目についたみたらし団子を口に入れる。椅子を勧められたが断る。この時は一刻も早くゴールへ向かうことしか考えられなかった。お礼を言ってテントを出た。

あと14kmやろ

最後はその気持ちだけが自分をゴールに向かわせたことは間違いない。応援に来てくれた方やエイドで出会った方々やともに走るランナーの存在などではなかった。こんなこと書くと非情な人間だと思われるかもしれない。でもこのエイドを出た時「とにかくあと14kmで終わるんだ...解放されるんだ...」それだけが唯一の原動力となった。いや、それ以外考えられなかったという方が正しいかもしれない。

『川越市街までのこり○km』

川越バイパスに入るとこんな距離表示が1kmごとに現れる。ついに恐れていた睡魔が195kmを超えたあたりで一気に襲いかかって来た。まるで後ろから暗闇に引き摺り込むようなほどの勢い。歩きたい欲求、眠りたい欲求、一刻も早くゴールにたどり着きたい欲求など様々に入り乱れた感情が頭の中で格闘していたと思う。ただ足だけは前進しようと必死に動き続けていた。


何度つまづいて転びそうになっただろうか。衝撃で足の指先から痛みがじわじわと広がってくる。それでも睡魔は背後から離れようとはしてくれない。すでにスタートから21時間以上が経過している。夢と現実の境目が分からなくなってきた。走っているのか歩いているのか。いや、そもそも進んでいるのか。こんなんじゃだめだ。もっとしっかり走れるはずだろ。そう問いかけるが身体は金切り声の悲鳴をあげるどころかもう何も発してくれない。バイパス沿いを猛スピードで走り去る車のヘッドライトがまぶしくて視界が涙で滲んだ。あともう少し。あともう少し。そう呟きながら淡く青みがかり始めた暗闇に向かって足を動かし続けた。(その④より)

ようやく川越バイパスを乗り越えた頃には完全に夜は明けていた。スマホを取り出しロストしないように入念に現在地を確認する。あれほど闇の中に引き摺り込もうとしていた睡魔はいつの間にかいなくなっていた。

見覚えのある交差点が見えてきた。

あそこを曲がれば・・・

あ!あれだ!





そして・・・

朝6:24分頃

FINISH!!

小江戸大江戸200K
距離204.2km

22時間23分31秒
avg.6'34/km
総合4位/384名

0-50km 4:51:59 avg.5'07/km
50-100km 4:57:28 avg.5'57/km
100-150km 5:54:06 avg.7'04/km
150-200km 6:28:19 avg.7'46/km



その⑩〜編集後記〜
へつづく?!


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