2023-24 STMダブル760K ②結果まとめ

第2回 単独!アワイチランニング!! その④ 〜月光〜

第2回 単独!アワイチランニング!! その④ 〜月光〜

★リアルタイム速報★
その① 〜概要〜
その② 〜まえがき〜
その③ 〜START!!〜
からの続きです。




もう日付はすっかり変わっている。時折猛スピードで車が走り去っていく音を別にすれば、市街地は大洋に浮かぶ孤島のように静寂に包まれている。35kmを過ぎたあたりだっただろうか。自販機で水を購入した。ここで絶対にやってはいけないミスをしでかした。水をソフトフラスクに移す際に、あろうことか両手袋に思いっきりぶちまけてしまったのだ。もちろん替えの手袋はない。

チメテ(冷て)ーーーー

この状況ではもはや手袋をして走る方が危険だ。だからと言って吹きさらしの氷点下の中を素手で走れたもんじゃない。くそ。こんなことで。。手袋の指部分は全滅していたので辛うじて水没を免れた掌部分に手を丸めて入れて走った。

信じられないかもしれないが、こんな取るに足らない些細なアクシデントがアレの引き金となった。アレとは、そう、不調である。しかし当の本人はこの時点で不調の波が忍び寄っているとは考えもしていない。なぜならまだフルにも達していない距離だからだ。150km近くも走ろうかという人間がまさかフルにも満たない距離で失速するなど噴飯ものだ。いや、正直に言おう。

「まさか!そんなはずはない。これは何かの間違いだ。あと数分もすれば、なんだただの勘違いか。と笑い話になるに決まってるんだ!」

と現実から目をそむけていた。しかし実際は数分で収束するという夢みたいなことは起こらず、結局不調というぬかるみの中を夜明けまでもがき続けることになる。

すもとハーフの距離表示を発見。
あと数時間後には開催されるようだ。

ふくらはぎのこわばりが広がり徐々に足に重みを感じるようになった。焦る。なぜかキロ5分台のペースでは走れなくなり始めた。30〜40kmのラップペースは6'05/km。40〜50kmはなんと6'59/kmまで落ちてしまった。

寝てないから疲労してるんだ。
いや、でも眠気はない。
ほんとに最後まで走れんのか?
あぁ情けない。

もう辞めちゃいたい。

まかりなりにも三十数年間生きてきたので自分の意志の弱さは誰よりも知っているつもりだ。でもまさかこれほどまでだったとは・・・。交差点で左に行けば『洲本』という看板が出ているのを見つけるとより一層辞めたい気持ちが高まった。ここでショートカットしようか。どうしよう。実際に交差点で立ち止まりスマホの地図で確認した。

慶野松原
美しい風景が広がっているはずだが
暗くてよく見えなかった


▶︎▶︎50km → 100km 5:48:17 avg.6'57/km
《湊(54.7)〜道の駅福良(75.5)〜灘土生(90.2)〜由良(113.3)》




4:21(05:31経過)
54.7km地点
を通過

アワイチランニング
湊の交差点

驚くべきことに『不調をどう乗り越えられるか』という旗を掲げて走っていた本人が、まさか50kmやそこいらの距離でその旗を自ら下ろして目の前の敵から一目散に逃亡を図ろうとしたのだ。ブログに速報記事なんて書かなければよかったとまで思うようになった。不調は追い打ちをかけるようにフィジカルにまで影響を及ぼし始めた。以前痛めたことのある左足の腸脛靱帯が痛み出し、膝を曲げるごとに嫌な感触が現れ始めた。ほんとにもうダメかもしれない。しかし内心では「これで辞める理由ができた」と安堵の気持ちが生まれたことを白状する。 風が吹き荒れる海岸沿いを歩きながら速報の記事にこう書き込んだ。

5:08
60km過ぎ
チョウケイが痛み始めて歩いている
福良でどうするか決めるつもり



何とも情けない話だが全て事実だ。
だが今辞めても帰る手段がない。福良に着く頃には夜が明けてバスが出ているかもしれない。とりあえず福良までは頑張ろう。そんなことを考えながら波で揺れる月光を眺めていると昨年のことを思い出した。

その⑤へつづく




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